ミスチルのhimawariに潜む、桜井和寿の2つの異常性

Mr.Children

こんにちは、考える犬くんです。
今日もみんな大好き、ミスチルの話。

さて突然ですが、みなさん。

Mr.Childrenのhimawariという楽曲をご存知だろうか。


映画、「君の膵臓を食べたい」の主題歌。
2017年リリースの、37thシングル。
えっ、37thシングル??ちょっと多すぎない?



…話を戻そう。

お得意のファソミラ進行に乗せられた、切迫した感情。
それは「君」への愛しさと一括りにはできない、
ある種の禍々しささえ感じさせる。

ミスチル至極のラブソングだ。


しかし突然だがこの曲、異常な曲である。

どう考えても他の曲にはない、明らかに異質な点が2つある。

1つは歌詞において。もう1つは曲において。

今日はその辺りを語ります。

ぜひ「どの部分かな?」と想像しながら読んでみてほしい。

1.歌詞の異常性

まず1番の歌詞から見てみよう。

優しさの死化粧で 笑ってるように見せてる
君の覚悟が分かりすぎるから 僕はそっと手を振るだけ

Mr.Children/himawari

いきなり怖

鳥肌ものの歌い出しだ。

君に纏わりつく死の気配と、それにより予感される別離を、
ちょっと他にないくらい個性的な表現で、
見事に2行にまとめている。


この時点で、「君と僕はきっと一緒になれないんだな」
という絶望感が早くも漂う。

暗がりで咲いてるひまわり
嵐が去った後のひだまり
そんな君に 僕は恋してた

Mr.Children/himawari


君をひまわりに投影して、僕はその記憶に思いを寄せている。

「ひまわり」と「ひだまり」で韻を踏みつつも、
「暗がり」と「ひだまり」で対の構造も成立させる。

異次元の作詞テクニックをこれでもかと見せつけてゆく。

少し歌唱にも触れると、「僕は恋してた」の部分の、
桜井さんの歌い回しが素晴らしい。
語尾を強めるのではなく、極端に「抜く」ことによる裏切り。

優しさ、切なさ、そして無力感。


色んなものが入り混じった余韻を残し、1番を終える。


でも正直、ここまではまだ想定内。
さすがミスチル、さすが桜井さんといったところ。



続いて2番の歌詞。

問題のBメロである。

なぜだろう怖いもの見たさで
愛に彷徨う僕もいる

君のいない世界って
どんな色をしてたろう?

Mr.Children/himawari

ここで浮気心。

え、そんな事言っちゃうの???

…いや、えーっとね。

浮気、不倫、倦怠期といった、恋愛の暗い部分を描く
いわゆるダウナー系ラブソングは、実は意外にミスチルに多い。


そして、そのどれもがやたら詞が良い。
ぶっちゃけ桜井氏の必殺パターンだ。


ただ、ちょっと待ってほしい。
この曲は死別の歌である。

死別と浮気心同時に描く曲って、他にあります?
ちょっと僕は知らない。



たとえばホラ、
花の匂い」とかも死の気配が色濃い楽曲だけど、
そこで急に他の女の話とか出てこないでしょ?



こういった死の匂いがするラブソングって、
普通はどこまでも君の思い出に浸っていく展開になる。

これは歌詞に限らず、映画やドラマでもきっとそう。
愛しい人と死別したら、その人との思い出に囚われて、
暫く、その場所から動けなくなってしまう。


そんなふうに展開するはずだ。

違う誰かの肌触り
格好つけたりはにかんだり
そんな僕が 果たしているんだろうか

Mr.Children/himawari



普通じゃない。
普通じゃないよ。

でもなんだろう、凄く生々しい。

君がいなくなる
↓
抜け殻になる
↓
別の女性と雑に関係を持つ
↓
どこかで君と比較してしまう
↓
結果として、いっそう君への想いが募る


というのは、茫然自失になった心の動きとしてすごくリアリティがある。
なんとなく、村上春樹の小説、「ノルウェーの森」を連想した。

リアルなんだけど、間違いなく一般向けではない

大衆向けの恋愛映画ならアウトである。


さて。ここまでが歌詞の話。
ここからはもう一つ。
そして実は何を隠そう、こっちの方がメイン。

正直、これを言いたいがための記事と言って良いかもしれない。


次はこの曲のメロディの異常性について、見ていきます。

2.作曲家としての異常性


手っ取り早く結論から言ってしまうと、
この曲、Bメロとサビのメロディが同じなのである。

気づいてた?↓この部分ね

 Bメロ:透き通るほどまっすぐに 明日に漕ぎ出す君を見て
 サビ:暗がりに咲いてるひまわり 嵐が去った後のひだまり 


これって作曲する立場の視点だと、とんでもなく異常なんですよ。

「大胆な構成ですね」とかではなく、発想としてあり得ないんです。


うんとね、Aメロとサビが似てるならまだ分かるんですよ。
サビともう一つのメロディだけで構成された曲って、意外とある。

「少年時代(井上陽水)」
「幸せな結末(大瀧詠一)」
「亜麻色の髪の乙女(ヴィレッジ・シンガーズ)」


などなど。

…ただ、今回はAメロじゃなくてBメロ。

Bメロってサビの前にあるじゃないですか。

サビっていうのは、曲の一番美味しい部分で、
コース料理でいうと、メインディッシュ。
最高級牛フィレ肉のステーキですよ。

Bメロはメインへの前振りなので、つまりオードブルみたいなものですね。


だから、「サビと同じメロにしちゃおう」っていうのは、
フィレステーキの直前にサーロインステーキ出てきたみたいなことですよ。


今日の料理長はご乱心か?


もはやセオリーなんて関係ない。
ブッ飛んでいる。


で、もっと言うと、さらにヤバいのが、
リスナーの我々がその点に気づいていないってこと。


実際、僕がこの点に気づいたのは至極最近
ステーキ2連続を知らずに、おいしく完食
あまりに自然すぎて、わからなかった。



みなさんどうですか?この点気づいてました?
気づいてた人はすごいですよ。
僕は分からなかった。



でもこれが、魔法のレシピをもつ料理長、
桜井和寿の手腕である。

底が知れない。




…でもさ、桜井さんのことだから、なんか
「自然に作ってたら、結果こうなった」みたいなこと言うんだろうな。

でもって、それをそのまま完成形にしちゃう胆力もすごい。
踏みとどまるんだよね、普通は。

「既存のルールから外れた何をしても、完成した曲がよければ良い」という、
ある種の開き直りすら感じさせる。

まさにモンスターバンド、Mr.Childrenだからこそ可能な芸当だなぁ。



Mr.Childrenの37thシングル、「himawari」。


ミスチルが誇る天才料理人、桜井和寿が紡ぎ出した、極上の一皿である。

コメント

タイトルとURLをコピーしました